
ALT アジアは既に滅びた。 一切の通信の繋がらなくなった欧州、北米もきっとそうだろう。 どうやら、魔女とやらに世界は滅ぼされるらしい。 この星は物理法則に従うものだと思っていたが、ちゃんとファンタジー要素もあったようだ。 陸地はもうじき死の幕に覆われる。無駄に生き残った少数の人間は荒れ狂う嵐の中、南大西洋のど真ん中であまたの船でごった返している。 こういうアポカリプス世界では、人間同士の醜い争いや食糧の奪い合いで共倒れするのではなく、大移動についてこれない者から脱落するようだ。 なんとも創作のネタになりそうなストーリーだ。 解決、不可能――人類は惑星外への脱出手段をとうに失った。 克服、不可能――人類は魔女因子を取り除く技術を有していない。 討伐、不可能――人類はトレデキムを二度と再生産できない。 交渉、不可能――彼女は言葉を発しない。 魔女め、魔女め、魔女め! 怨嗟の声が世界から唸る。しかしそんなものは初めの数日で消え失せた。 意外なことに、その魔女の外見は10代の少女らしい。画像は世界を駆け巡り、その姿に畏怖の念を抱く人間ももういない。 そしてついに彼女は現れる。轟々と荒れる波を砕きながら中空に浮き、無表情で多くの箱舟を見下ろしている。 本当にファンタジー世界から飛び出してきたような格好だ。それにあの翼。骨でできている。普通に考えてあれで宙に滞空出来るわけがない。 最後の生き残りをあざ笑いに来たのか、しかしそうでもないらしい。 放っておいてもあと少しで人間は最期を迎える。 時間はもうない。今この瞬間に5隻ほど終了した。 雷雨が止む。波が穏やかになる。 星が――静かになる。 途端、他の乗員が無意味な発砲を始める。そのうち数発が命中するが、巻き戻しのように無傷に戻る。残ったのは血のように赤い蝶たち。 どうしてこんな、人間を滅ぼすほどの憎悪を抱くことになってしまったのだろう。 彼女ひとりしか魔女はいないのか。 ……仲間は、止めなかったのか。 ここで初めて彼女の表情が微かに歪んだ……ように見えた。 ――よくできましたね。 ゆっくりと口を開き、深淵のような笑みを浮かべる。 優しく、美しく、悍ましい。 目が合った気がした。これはきっと、勘違いではない。 ……おそらく、何か言葉を発した。 それが何だったのかは、もはや誰にも分らない。 誰にも。 誰にも――。










































