ユーセフ・シャヒーン『放蕩息子の帰還』@東京日仏学院エスパス・イマージュ。夢を追って家を出たまま音信不通だったアリが、12年ぶりに家族の元へと帰ってくる。野心のすべてが潰えた彼は、兄の工場で働くことになる。かつてのアリと同じように夢を抱き、外の世界へ飛び出したいと願いながらも、父に押さえ付けられているイブラヒームは、叔父であるアリを頼りにしようとする。しかし、すっかり牙を抜かれたようなアリの姿に、やがて幻滅していく……。
一番取り出しやすいストーリーはこんな感じだけど、実際はさらに人間模様が絡み合っていて、1970年代の中東戦争を背景とした当時のエジプト社会の中のある一家族の崩壊を群像劇として描いている。シャヒーンの長編は初めて観たが重層的な作りの好きなタイプの映画でとても面白かった。時折挟まれるミュージカル演出も楽しい。しかし、アリが甥に「俺がなんとかしてやる」と約束したのはいいが、まさかあんなやり方になってしまうとは……ラストがブッ飛び過ぎて……。
ダニエル・レイム『The Ozu Diaries/小津ダイアリー』@ Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下。約2時間20分という長尺でゆっくりと小津の生涯と作品を、残された日記と共に紐解いてゆく。特にその初期から日中戦争/第二次大戦までの時期を興味深く見た。山中貞雄についてもきちんと時間を割いてくれているのも嬉しかった。こうして少し紹介されるだけでも本当に魅力的な人だったのだろうなと思わずにはいられない。黒沢清とヴィム・ヴェンダースが共に小津の映画から生と死という主題を読み取りながらも、それを語る言葉がそれぞれの映画を思わせるものになっているのが面白いなあと。ツァイ・ミンリャンもそこを見るんだ、となりその捉え方にやはり彼の映画に通じるものを感じた。『麦秋』での祖父からおやつを貰う孫のあの笑えるやりとりと、その後の割れた食パンの演出はアドリブだったことに軽く衝撃を受けた。これから小津を見たい、あるいは知りたいという人はまずこれを見てみるといいのではというぐらい非常に良くできたドキュメンタリーだった。すでに小津ファンの人も十二分に楽しめるのは言うまでもなく。
今年の #東京国際映画祭『ヘイゼル85』ともう一本、サッカー史に残る伝説の試合を題材とした作品があるんだよな。
『あの試合』は1986年メキシコW杯準々決勝、アルゼンチン🇦🇷対イングランド🏴、マラドーナによる5人抜きゴールと例の「神の手」ゴールで今も物議を呼ぶ伝説の名試合を改めて検証するドキュメンタリー。これすごく観たかったんだけど、3回ある上映どの日も無理な時間帯。なんとか公開してほしい。
上映後は監督のテオドラ・アナ・ミハイと主演のマリーを演じたヴィオレット・ブレックマンが登壇してのQ&Aが行われた。「ヘイゼルの悲劇」はベルギーの人たちにとっての911のような出来事であり、現在に至ってもそのトラウマは消えていないとのこと。そしてこれは40年前の話だが、今まさに起こっていることでもあると話された。
#東京国際映画祭
テオドラ・アナ・ミハイ『ヘイゼル85』@ TOHOシネマズシャンテ。フットボール史に残る大惨事「ヘイゼルの悲劇」のことは知っていたけれど、結局試合が行われたことまでは知らなかった。一旦中止にして、別の日に改めて行われたのだと勘違いしていた。この映画が問うのはまさにそこで、39人もの死者と数百人の負傷者を出したにもかかわらず、なぜ試合は中止されなかったのか。
ユヴァル・アブラハーム、ラヘル・ショール『NAZA ナザ』@シアター・イメージフォーラム。暗闇の中、顔の見えないイスラエル軍の兵士と諜報員24人が語るガザの殲滅システム。AIを使って人々の携帯電話に侵入し、すべての建物には数字が振られている。淡々と語られるそのおぞましい実態。
影絵のように浮かび上がるインタビューの聞き手と語り手。その向こうに映し出され、編集によってカットバックされるのは、大都市テルアビブの洗練された美しい夜景であり、アパートの大きな窓越しに見える人々の穏やかな暮らしの断片。どこかヒッチコックの『裏窓』を思わせるこのショットだが、ガザにもかつて同じような光景があり、たくさんの人々のそれぞれの人生と日常があったことを否が応でも想像させる。よくぞこの映画を作ってくれたと思う。そして、これほど迅速に映画館で公開してくれた配給会社にも感謝したい。








