私がヴェリタスの擬人化を僭称している理由です
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"最近レッドウィンターで知り合ったラナって子の得意技が「IPoACスプーフィング」という話を聞いたんだけれども…
どういう技だと思う?"
先生の問いかけに、最初に反応したのはキーボードの手を止めたチヒロだった。
「IPoAC……ああ、RFC 1149のこと。IP over Avian Carriers、鳩の足にIPパケットを括り付けて飛ばすっていう、エイプリルフールのRFCだよ。後にQoS拡張とかIPv6対応の後続RFCまで出てる、ジョークにしては妙に息の長いやつ」
「鳩……」と、部屋の隅で録音機を抱えていたコタマが小さく呟く。「電波を使わない経路は、傍受できません。あの学園が本気でそれを運用しているなら……少し、困ります」
困る、の部分だけ声が低かった。
「で、スプーフィングってことは送信元の偽装だよね」
ハレがエナジードリンクの缶を揺らしながら割り込んできた。
「IPoACの送信元アドレスって、要するに鳩の足についてる紙切れだから。他人の鳩を途中で捕まえて、紙だけ自分のに差し替えて放してやれば、受信側はちゃんと正規の鳩が届いたと思う。鳩本体は本物だから鳩レベルの認証は通る。中身だけ嘘。MITMの一番原始的な形だね」
「それか、鳩の方を偽装するとか!」
マキが床に転がっていたスプレー缶を拾い上げ、身振りを交えて語り出す。
「相手の鳩とそっくりな色に自分の鳩を塗っちゃうの。白いところは白、灰色のところは灰色……受信側が鳩の見た目で判別してるなら、これでなりすまし成功!あたしなら三分で仕上げられるよ」
「それは鳩への器物損壊。却下」
チヒロが即座に切って捨てる。
「ただ、レッドウィンターっていうのが引っかかるんだよね」
チヒロは顎に手を当てて続けた。
「あそこは寒い。鳩の飛行効率が落ちて、パケットロスがそもそも高い環境。再送が当たり前になる。再送要求に便乗して、正規の鳩が遅れてる隙に自分の鳩を先に届けてしまえば、受信側は最初に届いた方を信じる。シーケンス番号の管理なんて紙切れでは誰もやってない」
「あと、帰巣本能の方を騙す手もあるよ」
ハレが缶を置いて、指先でテーブルを叩く。
「鳩は自分の巣に帰る。だから相手の鳩を自分の鳩小屋で飼い慣らして、そこを巣だと思い込ませれば、以後そのネットワークのパケットは全部こっちに飛んでくる。ARPスプーフィングの鳩版。ゲートウェイを乗っ取るのと一緒」
「……それは、恐ろしいです」
コタマが真顔で呟いた。
「盗聴器を仕掛ける必要すらなく、全パケットが手元に集まる……理想的……いえ、恐ろしいです」
「コタマ、今本音が先に出たよね」
チヒロの指摘に、コタマは録音機で口元を隠した。
先生の方へ向き直って、チヒロは少しだけ呆れた顔で結論を出す。
「要するにその子の得意技は、鳩泥棒か、鳩の餌付けか、鳩の変装か、そのあたりのどれかだと思う。どれも技術というより動物の扱いの話だし……先生、その子とはあまり深く付き合わない方がいいかも。ヴェリタスの問題児が四人に増えるのは避けたい」
「四人って誰のこと?」
マキが自分を指差しながら首を傾げるのに、誰も答えなかった。
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